8時10分上野発の京成スカイライナーで成田空港へ向かいます。3時間くらいしか寝ていないので目の玉がごろごろしていて眠い眠い。 今日後発で出掛けるのは三味線2人に鳴物2人の計4人。スカンジナビア航空(SAS)でコペンハーゲン経由リヨンへ、18時間くらいの飛行機旅です。スカンジナビア航空(SAS)に乗るのは初めてすが、飛行機がボーイング767で座席が2・3・2の配置。何となくゆったりしていて圧迫感が無く、ジャンボに乗っているよりはずっと楽でした。
とにかくこの1週間の睡眠不足と疲れで飛んでしばらくは寝っぱなし。これでコペンハーゲンまでの12時間の半分くらいがこなせればいいのですが、実際にこれがそんなに寝ていられないのですね。
飛んで4時間くらいですっきりと目が覚めてしまったので、東京であまり復習えなかった「棒しばり」の譜面とにらめっこ。これはまあ今までに何回もやっていますから、1時間くらい頭の中で復習っているうちにつながってきて一安心。次なるはこのリヨン行きの宿題になってしまった、16日から出掛ける「韓国公演」の作曲。
劇中の舞踊の部分で10分くらいのものなのですが、作曲は初めてですし短いといっても本公演の曲ですからすごいプレッシャーです。東京にいる間に思いついた旋律を書き留めてだいたいのアウトラインは考えてありましたので、一眠りして頭もすっきりしたところでこれに取りかかることに。我ながら結構集中していたのでだいぶはかどり、何となく形になってきましたので一休みして時計を見ると何と!4時間経っていました。そんなことをしているうちに2回目の機内食。どうも国際線に乗っていると体は全然動かしていないのに、のべつ食べてばかりいるようでずっと満腹感が持続、どうも体に良くないですねぇ。
本を読んだりしているうちに我慢我慢の長い12時間が過ぎてデンマークはコペンハーゲンに到着。私はこの空港に降りたのは初めてです。乗り換えまでに2時間半あるのでしばらく空港内をぶらぶら散策。現金はフランしか持ってきていないので、これではお茶も飲めませんから両替所でデンマーク・クローネに両替。200フランが197クローネになりましたから1クローネ約15円弱、フランとあまり変わらないのです。硬貨が何枚かあったので試しにうちに電話をかけると通話はクリアーだし、しゃべっていて時差がないし、浅草から電話をしているみたいでびっくりしました。40クローネで約5分、遠くにいるのにずいぶん話せるものです。

コペンハーゲンの空港にて
成田で旅行社の方から「コペンハーゲンからリヨン行きの飛行機は途中ドイツのデュッセルドルフでいったん降りますが、くれぐれもここで降りないで終点まで乗って下さい」と念押しされたのですが、次に乗るのがその飛行機です。カウンターに行くとお客さんは30人くらい。「これっきゃ乗らないのかなあ」「じゃ、空いてるね」バスに乗っていざ飛行機に向かったのですが、そのバスの止まった前には小さなジェット機が!。
ドアの裏側がタラップになっている外国の要人や映画俳優が使っているプライベートジェットのような飛行機で、約30人のお客さんでも中はほぼ満席状態。機体の幅は一間半くらいで路線バスよりも狭く、窮屈な飛行機でした。
搭乗券には「BUSINESS」とあったので「おっ!」なんて喜んでいたのですが、何のこっちゃない全席「BUSINESS クラス」なのです。飛んでからはほとんど寝ていましたが、途中デュッセルドルフで降りたときに、トイレのドアが開かなくなり中に人が閉じこめられて大騒ぎになっていたり、ずいぶん賑やかでした。
夜10時過ぎにリヨンに到着。成田を発って約18時間、体は痛いし眠いしぼーっとした状態でしたが、着陸間際のリヨンの夜景の素晴らしさにはしばし目を奪われ目が覚めました。空港には松竹の方が迎えに来ていてくれて車でホテルに向かいました。ホテルに着いていざ部屋に入ろうとしたら向こうの手違いで部屋が一部屋足りないとのこと。明日はちゃんと用意してくれるとのことなので今晩は三味線二人が相部屋となり、部屋に入るとベッドルームには大きなダブルベッドが一つドーンとあるだけ。二人で顔を見合わせ「ん!相部屋はしようが無いけど、ベッドが共かぁ?」再びフロントに行って文句を言ってリビングのソファーをベッドに仕立ててもらい、どうにか二人とも床につくことが出来ました。いやーそれにしても疲れた。明日は舞台稽古で10時集合だそうで、ハードな1日になりそうです。
9月29日 曇り後土砂降りの雨
昨晩はくたくたでしたが、ベッドが硬くてよく寝られました。今回泊まっているホテルはコンドミニアム形式でその部屋で生活できるようになっています。台所には食器、食器洗い機、冷蔵庫、電熱の調理台、お風呂場には洗濯機まで付いていて、私の部屋は2DKでちょっとしたマンションくらいの広さです。長く滞在するにはこういうところは良いですね。
8時半頃朝食でロビーに降りると先発隊のメンバーに御対面。今日は昼間舞台稽古をやって、夜8時半に初日の舞台が明きます。劇場は国立T.N.P劇場という現代的な劇場。楽屋は海外の劇場ではどこもそうですが、飾りっ気がなく殺風景で、鏡台が4つとなぜかベッドが1台置いてあります。
舞台にスタンバイして舞台稽古の始まるのを待っていると、長唄も囃子も見慣れた顔だし、大道具さんも顔なじみ。顔だけ見ていると公文協の巡業にきているみたいでとてもフランスにいるとは思えません。3時頃舞台稽古が終わり外に出るとあいにくの雨。
本番は8時半ですからいったんホテルに帰ることにしました。とりあえず飲み物でも買おうと思い近所のスーパーマーケットに行きまして、中に入ってみるとマーケットというよりは市場で肉、チーズ、魚、野菜など何とも美味しそうなものが沢山並んでいます。なかでも貝の専門店では大きな籠に新鮮な牡蠣、ムール貝などが山盛りになっていて、横のカウンターで白ワインを飲みながら食べられるのです。チーズもかなり濃厚なにおいを漂わせてそそられますし、テリーヌも美味しそうだし、小さなケーキも・・・歩き回っているうちにずいぶん買い物をしてしまい、袋を4つくらいぶら下げて帰ってきました。
夜8時半「リヨン歌舞伎公演」初日が明きました。今回の演目は「棒しばり」に「連獅子」。
「棒しばり」の間でハプニング!勘九郎さんが縛られている肩に担いでいる棒が真ん中から「ポキリ」と折れました。途中亀蔵さんの踊りの時に棒を差し替えて元に戻りましたが、折れたときには一瞬舞台の上には緊張が走り、すっかり息が詰まってしまいました。勘九郎さんも「棒しばり」で棒を折ったのは初めてだそうで、びっくりしていました。
外国のお客さんというのは上演中にはいっさい拍手などしませんから、芝居の最中はシーンとしていて何だか心配になってきますが、終わったあとの声援、拍手喝采にはすごいものがあります。「惜しみない拍手」というのはこういうものかなぁ、なんて考えていると、いつまでもやまない拍手に勘九郎さんが「よしもう一回いこう」と髪洗いのアンコール。これにはお客さんも大興奮で割れんばかりの拍手の中、初日無事終了。
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PARTHNON RESIDENCE
ホテル正面です
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楽屋にて
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TNP劇場ロビー
お洒落なおばあちゃんが二人
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終わったあとレセプションがあり勘九郎さんがフランス語で御挨拶。フランス語といえば「棒しばり」の終わり近く、酔っぱらって「私は知りゃっせん」というところをフランス語で言ってお客さん大喜びでした。
ホテルに帰ると深夜0時半。昼間買った食料を部屋で暖めたり、焼いたりしたらこれが結構オツで美味しい食事となりました。しかし今日はくたびれた。
9月30日 曇り時々雨
今日は夜8時半からの公演なので昼間はフリータイム。こんなに昼間のんびりできるのは本当に久しぶりです。今月半ばから忙しくなってきて日本を発つ前はそのピークでしたが、遠くリヨンに来てやっと一息つけました。よく眠れるのですが体はどうもはっきりせず正直なところ部屋でごろごろしていたいような感じでしたが、ここに来てぼーっとしているのももったいないので、ちょっと町中に出掛けました。
リヨンはハイテク産業や金融業が盛んなフランス第2の都市。そして絹織物と美食の街でもあります。スカーフの制作過程が見学できる工房があるというのでまず行ってみました。古い建物の中ではプリントの色を重ねる工程や染めているところを見ることが出来て面白かったです。
ここの旧市街地は世界遺産にも指定されていてとても良い町並みです。とりあえずガイドブックに出ているところをぶらぶら見て歩きましたが天気はあいにく曇り。あまり写真も進まず、街の目抜き通りまで来たところでカフェで一休み。休んでいるうちに何だか急に体ががくっとくたびれてきて私は一足先にホテルに帰って休むことにしました。今朝方ちょっと喉が痛かったので風邪薬と抗生物質を飲んだのですが、どうやらそれでラリった様な状態になったようで歩くとふらふらするし胃は痛くなるし、体調は最悪。どうなることかと思いましたが、夜、舞台が始まると山台の上ではそんなにしんどくなく無事に終わりました。
公演が終わると10時半を廻っていて、おまけに今日は土曜日で町は真っ暗。具合も悪いので表に食事を探しに行くのはやめて、荷物に入れてあった「熱湯を注いで5分で出来るおにぎり」と仲間がくれた醤油味の即席ラーメンをキッチンで作って食べましたが、実に元気の出る味で美味しかったです。

テロー広場にて
10月1日 快晴
昨晩は早く寝たせいか、今朝はお腹が空いてすっきり起きることが出来ました。
今日はリヨンに来て初めて晴れまして、空は真っ青だし写真日和、リヨン市内が一望できる旧市街のフルヴィエールの丘に行きました。丘の上には白亜のノートルダム・ド・フルヴィエールバジリカ聖堂、ローマ時代にはこの丘の上にリヨンの町があったのでまわりには14,15世紀の古い建物が残っていますが、圧巻なのはローマ劇場跡で半円形の広々とした石段が見事。
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「フルヴィエールの丘」
ちょっと霧が出ていましたが市内が一望できました。
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ノートルダム・ド・フルヴィエールバジリカ聖堂内部
日曜日でミサの最中です。パイプオルガンの響きが心地よかった。
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ローマ劇場
こちらは大劇場とのことで、何か聞いたことのあるような呼び方です。
この客席になっている石段の角度はかなりきつく、一度下まで降りると登るのが厭になります。
写真(下)
半円形の部分は舞台です。
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ここはすぐ隣にある
「ローマ小劇場」
昔から大劇場、小劇場というのはセットで造られていたのでしょうか。
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ここからケーブルカーでふもとに降り旧市街をぶらぶら。
ソーヌ川を渡ると川岸の道に日曜の朝市が出ていて歩いてみましたが、肉屋八百屋、花屋、スパイス、魚貝、チーズなどいろんな店が500メートルくらいの間に所狭しと並んでいます。
どれも新鮮で美味しそう、もう少し長居するのだったらここで食材を買ってホテルで何か作るというのもいいなあと思いましたが、残念なことに今日はもう千秋楽。立ち止まるといろいろ進められるのですが「ボンジュール」とか言いながら素見してお終い。
まだ体の調子が良くないせいかちょっと疲れてしまったので途中サンドイッチを買ってホテルに帰って昼食を済ませ、一眠り。千秋楽は5時開演なので少し早めに楽屋入り。終わって荷造りをしないといけないので荷物を整理したりするうちに開演時間。
幕が明くと行きなり大きな拍手に「中村屋ぁ」。何だこりゃと思ったら今日は日本からのお客さんが最前列にずらりと並んでいて、そのあたりだけいつもの歌舞伎見物のノリになっています。上演中は静かに観るのが外国の方の常ですが、だんだん劇場中日本のお客さんのノリが移ってきて皆よく笑うし、拍手は大きいしいい雰囲気でした。「連獅子」が終わって拍手が鳴りやまないので、初日からずっとやっていたように再び幕を明けて髪洗いのアンコールをやったら、びっくりしたのは日本のお客さん達でした。歌舞伎座で「連獅子」をやったあといくら拍手してもまた幕が明いて髪洗いを見せてくれるということは絶対ありませんから、皆これには大喜び。
かくして怒濤のようなリヨンの歌舞伎公演は無事終了、いやーしかし何というか実に慌ただしいし3日間でありました。明日は帰国ですがこれがまた強烈な行程で行きと同じコースなのですが、朝6時フロント集合。トランジットがデュッセルドルフで1時間半、コペンハーゲンで1時間半、その後成田まで11時間。
あーぁ、長いなぁ。
10月2日 曇り
慌ただしいものでもう帰国です。行きに後発で来たメンバーは航空券の往復の関係でまた別の便。本隊は午後2時頃出発なのに私達は朝6時半ホテル出発。帰りは4人だけではなく大道具さんも一緒でちょっと心強い感じがします。行きはコペンハーゲンから乗りっぱなしで着きましたが、帰りは同じコースなのに降りるたびに飛行機が替わります。まずはルフトハンザに乗ってリヨンからデュッセルドルフへ。まだ朝早いのでリヨンの空港の売店はあまり開いてなく、キオスクの様なところで細かいお土産を買ってゲートに向かいました。ここの手荷物検査で三味線が引っ掛かりまして中を見せろとのこと。「japanese instrument」と言って三味線の胴の部分を見せると「oh !」 びっくりしていました。
「デュッセルドルフに行くやつは早くバス乗り場に行け」というような英語とフランス語のアナウンスが流れたので搭乗口を通り、飛行機はどこかなと見るとまたバスが待っています。「ん!ひょっとして・・」バスの向かう先には行きと同じような小さいジェット機が止まっていました。
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後ろの方でおじさんが一人でスーツケースを飛行機に載せていました。 |
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| 飛行機ではなく電車の中みたいです |
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これに乗って9時10分リヨンを出発、10時半デュッセルドルフ着。荷物はそのまま成田まで行くそうなので、手荷物だけで次の飛行機の手続きへ向かいましたがこの空港が何だかへんてこで、歩いているうちにまるっきり表に出てしまいました。ぐるぐる階段を上ったりしてしばらく歩き別のビルに入るとチェックインカウンターが見えてきて、またここでチェックインと手荷物検査。
ここで再び三味線が引っ掛かりドイツ人のおじさんが「中を見せろ」というのでまた「japanese instrument」だと言って胴を出して見せると何だか?大喜び!「OK」といわれたので「ダンケシェン」二つ三つしか知らないドイツ語をおじさんに言いながら三味線をしまいましたが、2回も三味線かばんを開けさせられたのは初めてです。
もっとも三味線のエックス線映像というのは四角い枠があって先細りの棒状のものがあって、結構尖ったものがいっぱい見えますから怪しまれるのも無理はないのですが。
ここでまた1時間くらい時間つぶし。コーヒーでも飲もうと思ったのですが、ここはドイツ。ドイツマルクがないので、日本円で買い物をして(使えるカードの種類が限られるのに日本円は何故かOK)お釣りをマルクでもらい、カフェで一休み。この空港でパスポートコントロールを通り出国手続き完了。
次はスカンジナビア航空でコペンハーゲンまで約1時間です。コペンハーゲンの空港は行きにもぶらぶらしたので何となく景色がわかっています。ここでは2時間あるので、またお土産を買ったりコーヒーを飲んだりして過ごしていよいよ長丁場、成田行きの飛行機へ。
成田に行く飛行機ですから日本人が多いのは当たり前なのですが、北欧方面は今人気があるのでしょうか。結構混んでいてほぼ満席でした。帰りの飛行機でも私は韓国公演の宿題にかかりっきり。この時間に何とか形にしないと本当に間に合わなくなってしまいますからかなり真剣にやっていました。そのおかげで帰りもあまり時間が気にならず、いつもより早く時間が経ったような気がしました。途中日付が変わりまして成田到着は10月3日朝9時半。いつものことですが成田に着地した時は本当にホッとしますね。
楽屋日記「リヨン編」これにてお終い。長々とご覧下さってどうもありがとうございました。
あとはいつもの楽屋日記へと参ります。