9月7日
 
大変に盛り上がった8月納涼歌舞伎、29日に千秋楽となりました。コクーンや平成中村座では楽には必ず千秋楽スペシャルがありましたので、今回はどうなるのかと思っていたらやはりありました。カーテンコールの最中に迷彩服黒子が持ってきた行灯を勘九郎さんがふっと消すと「ウエストサイドだんまり」が始まりそこに花道からご家老様(三津五郎さん)が煙管をぷかぷかやりながらスキップで出て来るというもの。そこには三味線の用事がありますので私たちも終演近くに黒御簾でスタンバイ。
 千秋楽スペシャルは打ち合わせ通りに終わりまして、まだ何があるかわかりませんから(急にイッツ・ア・スモールワールド弾いて、なーんてね)黒御簾にいると「みんな舞台にどうぞ」とお声がかかり、私も舞台に出ました。勘九郎さんが客席に向かって何か手招きすると客席中「野田!」コール。
 舞台に駆け上がった野田さん、勘九郎さん、三津五郎さんに歌舞伎座中がスタンディングで拍車の嵐!三階の一角では福助さんの「あっぱれじゃ」と同じ、日の丸扇子軍団がお扇子パタパタしていたり、歌舞伎座でこんな光景は初めてでした。
「野田版 研辰の討たれ」無事に終わって良かったです。

 翌30日から9月歌舞伎座の稽古が地下の稽古場で始まりますので、楽器や荷物を稽古場に置いて黒山の人だかりの楽屋口から退散しました。

柴又

柴又といえば、これですね 

 今月の私の仕事は、昼の部の「俄獅子」と夜の部の「女殺油地獄」です。稽古中は比較的早い時間に体が空いたりしまして呑気な気分。9月1日はぶらぶら柴又に出かけました。
 何で柴又?かというと、この間テレビで柴又特集をやっていまして、レポーターの「ホンジャマカ」の石ちゃんが食べていた天丼があまりにも美味しそうだったので、それを食べに行くのが第一目的。
いざ行く段になって気が付いたのですが、私柴又に行くの初めてなのでした。柴又の駅を出てちょっと歩くとすぐ参道、両側に並んだお店を眺めながらぶらぶら歩くと帝釈様に着きました。
 境内では曲芸をやっている人、のこぎり音楽(ピヨヨ〜ンというやつ)をやっている人あり「む、む、む!」実にいい雰囲気。こぢんまりとした門前町、町中がのんびりしていて何だか落ち着いてしまいます。天丼の「大和家」さんはすぐに見つかりまして、石ちゃんが頼んだのと同じ上天丼を頂きましたが、大きなエビの天ぷらにちょっと辛目の濃いタレが程良くしみていて美味しかったなぁ。ちょっと観光気分で遠出したようですが葛飾区は荒川を渡って墨田区の隣、京成に乗って30分。近いんです。

天丼
おつゆの色が濃くて
見るからに美味しそう
下町の天丼ですなぁ
柴又
天ぷらは店先で揚げています。これにつられてどんどんお客さんが入ってきます。

 8月20日頃から涼しかったので毎朝自転車に乗っていました。
22日の台風上陸の日以外は荒川の河川敷を「時速25キロ以上で最低10キロは走るぞ」を目標に上ったり下ったり。日差しがあっても走って風を切ると涼しくていい気持ち。汗もよくかき体も慣れてこの頃の朝の習慣となっているのですが、9月2日はちょっと距離を伸ばして「葛西臨海公園」まで行って来ました。
 河川敷をひたすら走って葛西橋を渡りサイクリングコースに入って荒川の河口に突き当たると左に葛西臨海公園、その向こうにはディズニーランドのビッグサンダーマウンテンの山が見えまして「ディズニーランドって家からこんなに近かったの!」とびっくりしました。公園の中程まで行くと浜辺があってお天気の日に来るには良いところ。私の家から葛西臨海公園往復で約2時間、距離は30キロちょっと、前に戸田の競艇場付近まで行ったときには往復32キロありました。30キロ超えると足はパンパン、腰もかなり痛くなりなかなか乗りごたえがあります。

 体もトローンとくたびれてこれでのんびりできればいいのですが、この日はお休みではなく夜8時から「女殺油地獄」の舞台稽古がありました。稽古割りに「8時より」と指定してあったので8時にはちゃんと始まるのだろうと7時過ぎに歌舞伎座に入ると、前の「明君行状記」の舞台稽古が延びていてどんなに早くても「油地獄」の舞台稽古にかかるのは9時過ぎとのこと。昼間の自転車で体はくたくた、もう眠くて楽屋で待っている間はあくびばっかりでしたが、いざ始まると「油地獄」のカゲというのはきっかけが次から次へと忙しいので目が冴えてきました。結局始まったのは9時半で終わったのは11時45分。思いがけないところでタクシー券が出ました。

 8月と9月の間も休みなし、ドドッと稽古が始まり初日が明いて今日で5日目。お芝居も落ち着き、私も妙に落ち着いた毎日を過ごしている今日この頃。

9月24日
 
今月の昼の出囃子「俄獅子」は抜き差しがいろいろあって14分くらい、途中「廓丹前」の木遣りが入っていますがそれでもこの時間です。体感的には本当にすぐ終わっちゃう感じ。夜の「油地獄」は7時38分かかり、「俄獅子」が終わって5時間くらい空きますので間の時間には国立劇場の養成課の稽古に行ったり何もなければ家に帰って、毎日歌舞伎座と家を2往復しています。この行って来いもあと3日でお終い。
 先日の台風上陸の日の客席はさすがに寂しかったです。
電車が止まるとやっかいなので私もいつもより早く家を出て10時過ぎには銀座に着いてしまい、スターバックスでコーヒーを飲みながら外を眺めていると風は強い、雨は横殴りと次第にエスカレート「こりゃもう行った方がいいかな」外に出ると松屋の角から歌舞伎座に着くまでにびしょびしょになりました。頭取さんに台風の様子を聞くと、今まさに東京23区を横断中とのこと、一番ひどいときに外を歩いていたわけです。みんな用心していつもより楽屋入りが早いですが、入ってくる人皆びしょびしょ。楽屋のインターホンからは「すいません、3階の大部屋で雨漏りです」「松江さんの部屋の窓が風で壊れそう」「お囃子さんの部屋でも雨漏り」とあちこちから被害報告。歌舞伎座の建物関係の方がバケツを持って大忙しでした。

自転車

愛車 PINARELLO VENETO
しばらく乗れないなぁ

 最近自転車通勤がブームで雑誌でもよく取り上げられていますが、私も車の少ない休日の昼間に歌舞伎座まで自転車で走ってみました。
 隅田川の土手の道から桜橋を渡り浅草に出て江戸通りをまっすぐ、昭和通りを左に行けば歌舞伎座です。休日といっても江戸通りも昭和通りも車が多いですから浅草から浅草橋までは江戸通りの一本裏の道、浅草橋からは横山町の問屋街を抜け、昭和通りを前方に見ながらホテルギンモンドの先を左に、小舟町の信号を右に行くともう江戸橋です。昭和通りも歩道の段差が結構ありますので永代通りを渡ってからまた一本裏の道を行きます。あとまっすぐ一直線に行くと歌舞伎座の裏、焼鳥屋の「一番鳥」の角に出ます。
 上のルートで距離は約10キロ、45分で歌舞伎座に着きます。これは電車で行くのとほとんど時間が変わらず私も実際に走ってみてびっくりしました。走ってみて感じたのは、とにかく風が気持ちよく汗もよくかいて爽快だなぁということ。それに往復20キロですから良い運動になります。地図を思い浮かべながら知らない道を進むというのは何だかドキドキワクワクで、路上観察をしながらいろいろな発見がありますね。舗装のいい道を選んでなるべく止まらないように行って今月の記録、片道43分で楽屋口に滑り込みました。やっぱりロードレーサーは速い速い。
 後ろから来る車、見通しの悪い路地などかなり気をつけていないとヒヤッとすることがよくありますが、一番危ないなあと思ったのはいきなり路地から飛び出してきて大きくふくらみながら曲がっていくおばさんのママチャリ。そのあとの進路も予想が付かず、悔しいけどこちらが自転車を止めて足を着くこと数知れず。車はある程度向こうがよけてくれますが、一番気をつけないといけないのは歩行者と自転車だなぁと思いました。あ、そうそう夜の無灯火の自転車っていうのも怖いですね。

ヘルメット

つい最近日本に上陸「LAS」のヘルメット
MADE IN ITALY です

 自転車用のヘルメットがあります。レースや町中を走るメッセンジャーの人がかぶっている不思議な格好で風通しの穴がたくさんあいているやつですが、町中を走っていると大きな事故よりつまらないことでこけたりというそんなことの方が起こる確率が多いそうなので私もこの自転車通勤を機に購入しました(上の写真)。慣れるまではあの形にちょっと照れますが、かぶっているととても安心!。

 「暑さ寒さも彼岸まで」といいますが、このお彼岸では過ごしやすくなるのを通り越してすっかり寒くなってしまいました。夜も冬の布団でちょうど良いですし昼間も長袖のジャンパーを着ていて暑くありません。22日は自転車に乗っていても体は温まらないし隅田川を渡る時には頭が痺れるほど寒くて参りました。

 「油地獄」の幕切れには「上下」がありまして上手の幕溜まりで弾いています。幕切れの時の幕溜まりには析を打つ狂言作者さんがいて後ろには幕引きさん、その隙間に箱足を置いて座って弾いていますので鼻の先10センチくらいの所を定式幕がザーッとすごい勢いで横切っていきますが、これは普段なかなか見られない景色で実に迫力があります。昨日も「油地獄」が終わって上手から舞台を横切って歩いていたら舞台にはねていた「油」これは寒天とふのりを混ぜたものだそうですが、これに滑ってどかーんと供奴みたいな尻餅を付きました。三味線は反射的に上に持ち上げたのか幸い無事でしたが思い切り尾てい骨を打ちまして、いやー痛かった。舞台で毎日滑っている染五郎さんと孝太郎さんは大変だなぁと思いました。歩くとお尻がギクギク痛いので膏薬を貼って寝ましたが明日はどんなことになっているやら。

 来月は南座に行きます。「小笠原騒動」のメンバーによる3回目は「木下蔭真砂白浪」その楼門の場の大薩摩を弾かせていただくことになりました。合引に足をかけて三味線を弾く姿というのは子供の頃からかっこいいなぁと思っていましたが、いざ自分がやるとなると‥今からすごい緊張しています。立って三味線を弾くというのは軸足が結構痛くなるもので、体もぐらぐらしてしまいます。家でお膳に足をかけて弾いてみたりして何となく要領がわかってきたような気がしますが、これも実際に舞台でやってみないとわからないですね。はぁー、緊張するなぁ。

9月27日
 
パソコンをいじっているうちに日付が変わって27日、千秋楽となりました。
 NHK総合の午後2時5分から「テントでセッション」という番組をやっていますが、今日は朝一番でこの収録に行きます。番組はキューサイの青汁でおなじみ、悪役商会の八名信夫さんとお友達のトークショーだそうで、今日のゲストは澤村藤十郎さん。その中で歌舞伎の音楽のコーナーがありまして、私はそこで用事があるとのこと。
朝8時半NHK入り(早いよー)9時から10時までリハ、11時から11時40分までが本番となっていますが、忙しいのはこれが終わったあと。12時55分に歌舞伎座の「俄獅子」が明きますから急いで渋谷から戻らなくてはなりません。まあ1時間ちょっとありますから間に合うのは確実なのですが、何となく気忙しいです。
 来月の大薩摩も作ったのですが昨日になってまた歌詞が変わって(河内屋さんのおやりになった時のものだそうです)作り直し。
旅の荷物も出さなきゃならないし、急に忙しくなってきました。何を詰めたかちゃんと書き留めておかないと忘れ物しそうだなぁ。

 前回の日記でしたたか打った尾てい骨ですが、やはり次の日にはかなり痛くなりまして歩くのも変な感じ、正座するとかかとがお尻に当たってピンピン響いていました。「俄獅子」は短いからいいですけど、これが「道成寺」「勧進帳」だったら大変だったかもしれません。只今はもうそんなに痛みを感じません。日に日に直っている感じ。

9月28日
 
昨日(27日)「テントでセッション」の収録でNHKに行ってきました。8時半スタジオ入りなので家を出たのが7時、眠い眠い。
「放送センターの駐車場の所に大きなテントがありますから」と聞いて行ってみると、建物はカラフルなテント風でありますが立派な鉄筋のスタジオ。
 この日はゲストが藤十郎さんで八名信夫さん率いる強面の「悪役商会」の面々が脇役の心得や立廻りを披露するというもので、横からリハーサルを見ていましたが皆さん実に可笑しいですね。八名さんが細かくダメ出ししながら「スローモーション」「次は任侠風」とか「歌舞伎風」やっていくのですがスタジオ中大爆笑!
私もやること忘れて笑っていました。サウンドチェックがすみ、音の部分の打ち合わせで藤十郎さんの楽屋に伺うと藤十郎さんは八名さんとトークの打ち合わせ中、二人とも楽しくて次から次へ話が止まらない感じ。
 11時から本番が始まりまして私たちは番組の中程、5分くらいの出番で無事終了。普段は午前に収録して午後2時5分から放送するそうですが、急に首相の所信表明演説が入りまして当日のオンエアはなくなり後日放送とのこと。
今日28日のテレビ欄では午後2時5分から放送がありますけど、これ昨日の分かな。

「テントでセッション」 悪役商会爆笑オンステージだ

  NHK総合 9月28日 午後2時5分から

9月28日(午後2時頃)
 
今NHKを見ているのですが、今日の「テントでセッション」は昨日収録したものではありませんでした。いつ放送するのか毎日テレビ欄をよく見なくちゃ。


10月3日

 9月27日に歌舞伎座が千秋楽。28日に京都の稽古が予定されていましたがこれは預かりとなりまして、おもいがけなくお休みになりました。しかし千秋楽近くになってやたら忙しくなってしまい宅急便を出す暇もなかったのでこの日に取りに来てもらったり、他の買い物やら三味線屋に行ったり1日中動き回ってしまいました。

 29日は京都乗り込み。南座は去年の顔見世以来です。
「木下蔭真砂白浪」全員集まっての本格的な稽古はこちらに来てからで、台詞の整理、立廻りを附けたり音を決めたりで毎日遅くまでかかりました。
 問題の「大薩摩」ですが、楼門の浅黄前ではなく大詰の葛籠抜けの宙乗りの後になりました。初めて大勢いる稽古場で弾いてみて、その緊張する具合というものがわかりましたが、これはまだ序の口でしょう。
 10月1日はテクニカルリハーサルで、葛籠抜けのテストと橋之助さんが宙乗りから着替えをして再び宙乗りで戻ってくる(いけね、ネタばれ)時間をとるのに大薩摩の時間も関係しますので舞台で初めて弾きました。普通上手に出ることが多いのですが道具の関係で今回は定式前の下手、それも花道の附際で揚幕を真っ正面に見る位置!実際に立ってみるとお客さんの中にぽつんと立たされた様で、何とまあ心細いこと。足を乗せる合引を置く位置、唄の人の立ち位置を決めて、テクニカルリハ開始。
葛籠抜けと宙乗りのテストは橋弥君が代わりに勤めまして、葛籠がカパッと割れて中から五右衛門が出てきて宙乗り、3階客席に引っ込みまして定式幕の中では次の場の道具が作られ、時間を計りながら大薩摩の出となります。何しろ初めてですから目線の位置、立っているときのバランス(結構軸足が疲れてグラグラするんです)‥もういろんな事を考えながら弾いていました。唐草(三味線が早い手をしゃかりきに弾くところ)あたりになって合引に足の掛け方が浅かったのか、だんだん合引が前に滑りだしたのには!!!。何とか体勢を立て直し終わって引っ込みましたが、これをひと月やるのは本当に大変な事だと実感しました。

 この日、悲しい出来事がありました。それは友人からのメールで知らされた古今亭志ん朝さんの訃報です。今年になってから体の具合がすぐれないというのは噂で聞いていましたし、夏頃になって年内の独演会などがすべてキャンセル、そしてつい先日「ニュースステーション」の「最後の晩餐」の出演。まったく縁起でもないとテレビを見ていましたが、あの太い首に丸いお顔がすっかりしぼんじゃって声にも力がなく、これはずいぶん悪いのかなぁと思いました。これから円熟期を迎えようというのにまさかこんなに早く亡くなられるとは‥‥。
 今頃天国で、断っていた鰻を肴に酒を二テレツやっつけて、志ん生さん、馬生さんとワイワイやっているかもしれません。
 職分が違うからこれはなかなか弾ける機会は無いと思うんですが、寄席の下座というもの一度経験してみたいです。いつの頃からか大好きな志ん朝さんの出囃子弾けたら素晴らしいだろうな、なーんて思っていたのですが、今となっては叶わぬ夢になってしまいました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

 2日は時間をかけて徹底的にやる「初日通り舞台稽古」。屋台崩し、宙乗り、立廻りと盛り沢山ですから8時間くらいかかりました。大薩摩もまあ?!無事に終わりましたが、新しい足袋をはいたので畳表の草履が滑って左足が落ち着かなくて困りました。客席は暗くて上からはスポットが来ますので目に入るのは正面の花道だけ。これは目線も楽だし気が散らなくて助かりました。稽古の時、時間を計っていて橋之助さんが「ベンちゃん、きっかり3分半!」とおっしゃっていましたが、この3分半は長いですよ。

 今日3日は幕間を本番通りに取っての「初日通り通し舞台稽古」、余程のことがない限り止めないで進めます。途中屋台崩しがうまくいかなかったり、何回か止まりましたが4時に終わりました。連日遅くてちょっと疲れていましたので今日はまっすぐホテルに帰りのんびりこれを打っております。
 今月のホテルの部屋は東山を向いています。正面には清水寺の五重塔がライトアップされていて空には見事なお月様。雅やねえ。

さあ明日はいよいよ初日。

10月4日
 
「木下蔭真砂白浪」初日。

 こういう仕掛けの多い長時間の芝居の初日というのは黒御簾にいて自分達の仕事のことはもちろんですが「転換うまくいくかなぁ」とか「支度が間に合うかなぁ」いろんな事を考えてしまいますね。葛籠の宙乗りなどは見ていてハラハラしてしまいます。
 私も大薩摩の他に楼門の舞台をさせて頂いていますから、きっかけやら合方の始めにお囃子の頭(かしら・合方の前のデレンとかズドンドンなど)がつくかどうか、役者さんがどこから出入りするかとか、もう一度確認します。
今回は特に稽古に入ってから毎日のように台本の追加やら訂正が出たので、みんなで台本を読み合わせて確認しました。

 初日の大薩摩、もうとにかく緊張しました。序幕が明いて「よくお客さん入っているなぁ」なんて黒御簾で感心していたのですが、ふと、この大勢のお客さんの前、あそこに出ていって弾くんだなぁと考えたら何だか急に恐ろしくなりました。稽古中に3回舞台で弾きましたが、これからは毎日これだけのお客さんの眼に晒されるんだという重圧はちょっと言葉にはならないです。これを克服するには場数を踏むしかないのでしょうね。
 今日は弾いていてずっと足がカタカタ震えていました。前の方のお客さんには見えちゃったかな。
芝居の方は順調に進み予定時間より5分早く終わりまして3時には楽屋を出られました。久しぶりに明るいうちに体が空きましたが、今日はコインランドリーに行って京都での初洗濯。これから一回公演の日は洗濯デーになりそう。

 今回は食生活に新兵器持参。草加のイトーヨーカドーで見つけた電気鍋なのですが、1050ワットでらくらく調理、普通の鍋としゃぶしゃぶ鍋がついてなんと2980円というお値打ち品です、奥様!。今まで忙しかったので送ってそのままになっていましたが、今日はこれの初お披露目。藤井大丸の地下でキムチ鍋セットと水菜を一束買ってきて作りましたが、久しぶりの温かい食事は美味しかった。鍋物だと野菜が沢山食べられるというのがとても嬉しいですね。次は鴨鍋だぁ。

電気鍋

今日の私、すごく満ち足りております。

10月10日

 5日から8日まで昼夜2回公演が続きました。稽古、舞台稽古、初日と今までは1回で終わっていたものが昼夜2回。しんどいだろうなと思っていましたが、体がペースに慣れずに4日目にはかなりグロッキー。
 今月の仕事のパターンは序幕から三幕目までの間、1時間半くらい黒御簾を弾いて、大詰が明いて30分位して大薩摩となります。昼の部は元気ですからそんなに感じませんが、カゲ弾き終わって「ちょっとくたびれちゃったなぁ」というクタッとした状態から大薩摩を弾く自身最高度の集中状態にもっていくのが、夜の部になると結構大変です。9日は久しぶりの1回公演で本当に助かりました。
 大変ですが回を重ねるというのはありがたいもので、大薩摩は初めの頃に比べると俄然落ち着いて出来るようになりました。合引に足を乗せて三味線を構えるのもすっといきますし、何と言ってもぜんぜんドキドキしなくなりました。お客さんの前に出てこんな風になれるんだなぁという自分自身の新たな発見、何だか不思議です。
今日の西の桟敷は宮川町の総見、南座ならではの景色で華やかですね。

 ホテルに送った荷物ですが今回も相変わらず多すぎて収拾がつきません。使うもの使わないもの分けて整理をしていたら、いつ放り込んだのか志ん朝師匠の「文七元結」のビデオが出てきました。早速見たのですが、いつ撮ったのか記憶にないこの「文七元結」実に素晴らしい高座でした。
緻密な人物描写や場面の切り替えの巧さ、特に文七に金を渡すところ、佐野槌の女将に諭されるところは見ていて吸い込まれるような語り口。テレビで告別式の様子を見ましたが‥何だか悲しくってねぇ、護国寺にお別れに行きたかったです。
 家からごっそり「旅用落語ビデオ全集」を送ってもらったので、夜は鍋つつきながらビデオ見て笑ったりホロッとしたり、楽しく志ん朝師匠のお姿を偲ぼうと思います。

 高島屋でキッチン鋏を買ってきました。水菜とか三つ葉など長くてバサバサした食材を切るのにとても便利。今日はすき焼きでした。

10月18日
 
また12日から15日まで昼夜2回公演が4日連続。正直なところこれはちょいときつかった。昼の部は元気がありますから淡々と進むのですが、夜の部のまぁ時間の長く感じられることと言ったら‥
 特に三幕目は竹本が入りますから、こちらの用事はぽつぽつと次のきっかけまで7分、10分とか間を置いてあります。その度にエレベーターに乗って楽屋を行って来い、腰を下ろすと出るのはため息と欠伸ばかり。三味線を弾いていても強烈な睡魔に襲われますから「フリスク」とかミントの粒をガリガリ噛みながらどうにか持たせて、何だか体がくたーっとしちゃった状態が続いたあとに大薩摩ですからね。毎日「今日は大丈夫かな?」すごく不安でした。

 16日が1回公演で、この日はコインランドリーに行ったあと、サウナに行って大きなお風呂に浸かってリフレッシュ。17日はまた2回公演でしたが、どうもこの日は朝から体がはっきりしませんでした。
ぼんやりとしたまま昼の部が進みドキッとしたのは大薩摩の時。
 今月は毎日、昼間に手慣らしのため手が痛くなるくらいガーッと弾いてその後「二の糸」を取り替えているのですが、昨日は何か手順が狂ってそれをすっかり忘れてしまいました。大詰が明いたときに気が付き、糸を送ってそれはそれで良かったのですが、支度をして袖で待っているときに何気なく左手を見ると!!古い切れかかった指掛けをしていました。毎日大薩摩の時はきつめの新しい方の指掛けに変えていたのに、それも忘れていたのです。袂を探るといつもは2,3個入っているのに、今日に限って一つもありません。
 仕方がないのでそのまま弾きましたが、人差し指にかかっている細い紐の部分が感じられず棹が指に触れていて今にも切れるんではないかと気が気ではありませんでした。無事に終わりましたが、こういろいろなことがちぐはぐになるときはよっぽど気をつけないといけないなぁ、と思いました。

 よく楽屋内で「魔の18日」なんて言います。毎日の仕事が落ち着き、中日が過ぎて楽まで後1週間くらい、と気が緩んでとちったりミスするのが多い頃なのでいつしかそう言われるようになったのでしょうが、昨日の私の状態はそれに近いものでした。昼間にそんな事が続きましたのですっかり頭が覚醒しまして、夜の部の大薩摩は今までで一番安定して弾けたような気がしました。
で「魔の18日」当日はどうだったかというと‥ご安心下さい。何事もなく平穏に終わりました。

先週の1回公演の日に南禅寺に行って来ました。三門に上がりましたが、折から快晴で京都市内を一望。吹き抜ける風も爽やかに、まさに「絶景かな、絶景かな」でした。

ここで実際に写真を撮った7月の猿之助さんの五右衛門のポスター、格好良いですね。

三門
かなり退かないとフレームに収まりません。
しかし本当に大きいですね、この三門
三門の欄干
ここに足をかけて
「絶景かな絶景かな」
見得をするんですね。
五右衛門やる役者さんて気持ちいいんだろうな

 明日からはまたまた昼夜2回公演の4連チャン。これが今月最後のヤマです。

10月20日
 
怒濤の2回公演の4連チャンが始まりましたが、昨日は不思議と1日中元気でした。ただ一つ参ったことがありまして、昨日は三味線を弾いていて右腕が痛くてしようがないのです。
毎日空き時間に楽屋で手慣らしのためぶわーっと大薩摩を30分くらい、右腕がカーッと熱く痛くなるくらいまで弾くと手が軽くなって、あとすごく楽になります。それが昨日は1回弾いただけで痛くて手がアップアップしています。手が重たくってどうもへんてこ、でもこの状態を超えないとしようがないし、とそのまま続けても全然軽くなってきません。

「何かいつもと変わったことしたかしらん」と考えると思い当たることが一つ。

 それは朝の「大根おろし」でした。冷蔵庫の中におととい買った大根(半分)ありまして、これをおろして朝ご飯代わりに食べちゃおうと、「100円ショップダイソー」で買った機能満載のプラスチック製おろしがねでガリガリやりやったのですね。大根おろしというのは結構力のいるものですから、おろし終わるまでには手がヘロヘロ。
 どんぶり一杯の大量大根おろしにすだちを搾ってお醤油をたらして食べたんですけど、口の中がキリキリとして目の覚めるような味。実に美味しかったです。胃も健やかに気持ちよくホテルを出たのに、これの後遺症が三味線弾くときに出るとは‥。

 黒御簾を弾いているうちに腕の痛いのも直ってきて、本番では気になりませんでしたが、三味線弾く前に大根おろしは禁物です。

さぁ残すところあと一週間となりました。

10月30日
 
27日に南座が千秋楽。はぁー、今月は長かった。

 大薩摩も楽まで無事に終わりました。三味線も裂けなかったし弾いている最中に撥の先を飛ばすこともなかったですが、一人で弾くものですから糸を切ったらそれまでです。駒切れ、根緒切れは論外なので使い慣れた駒に根緒。糸も折れてたりささくれているところがないか。毎日撥の先を磨いたり、と楽器や糸には初日から気をつけてきましたが、最後までノートラブルで行きたいと思いますから楽が近づくにつれてやたら神経質になっちゃいました。
 今月の公演数は全41回、ということで舞台では41回弾きました。普通なら1ヶ月25日興行で25回ですから今月は一度にずいぶん沢山弾かせていただいたことになります。そこに加えて舞台稽古などで3回、毎日昼夜とも本番前に楽屋で1回通して浚いますから「×2」で私自身のトータルは全88回。
本当に毎日が貴重な経験の一ヶ月間でした。

 26日に勘九郎さんが客席でご観劇。これは千秋楽に平成中村座の宣伝で特別出演か?昨年も法界坊の格好で乱入したそうですから、楽の昼の部にどこかで出てくるのでは、と噂していたら27日は勘九郎さん、演舞場にご出演でお帰りになったとのことでこれは無し。

 さて千秋楽。大薩摩が終わって7時25分、いつもより片づけるものが多いので大変でした。袴、紋付きをたたんで、合引を梱包。博多行きのボテに収めてから自分の支度。三味線をたたんで着替えて南座を飛び出したのが7時40分。いつもよりやっていることが多いのに「特A急ぎ」片づけで8時9分の「のぞみ」に間に合いました。

 28日は文化庁の巡業の「勧進帳」の舞台稽古で札幌へ。舞台稽古に人が揃わないので半月くらい前には行く事が決まっていましたが、いざ行く段になってみるとまぁ慌ただしいこと。京都を発った12時間後には羽田にいてお昼には新千歳空港に到着。いつもだと初日の明く会館で前日に舞台稽古ですが(今回は札幌教育文化会館)28日は日曜で会館が使用されているのか?舞台稽古は恵庭市民会館で、という不思議な状況。「勧進帳」はいつぞやの4ヶ月連続上演以来私は縁がなく久しぶりです。舞台稽古が始まってみるとあらためて長くて大変だなと思いました。
 私は「勧進帳」だけなので終わって一足先に失礼して電車で札幌へ。ホテルに着いたら急にくたびれちゃって、ずいぶん早い時間に寝てしまったようです。

 29日は東京に帰るだけ。ホテルにいるのも退屈なので札幌駅前のビックカメラをぶらぶら散策。「札幌まで行ってビックカメラ?」と思われるかもしれませんが京都ではこういう大型カメラ量販店から遠ざかっていたので、久しぶりにのんびり新しいデジカメをいじったり一眼レフをのぞいたりしているところに「勧進帳」の本メンバーが新千歳空港に着いたとの連絡があって、私は晴れてお役ご免。一人で北海道から帰るなんて言うのは初めてかな。これからちょっとの間、呑気な一人旅。札幌を後にして空港までは快速電車で約40分。
 車窓に広がる山々はすっかり色づき秋真っ盛り、遙か遠くまで続く牧歌的な風景を眺めていると北海道は大きいなぁとつくづく感じます。着物やら着替えの入った鞄はホテルから送ってしまったので、帰り道は三味線に小さいカメラバッグだけと身軽。空港の売店を眺めているとタラバガニの足、毛蟹、諸々の海産物‥美味しそうなものばかりで目移りしてしまいますが、「とんでんファーム」のベーコン、ソーセージを買ってきました。このベーコン、「どっちの料理ショー」にも出たそうで帰ってきて早速食べましたが、スモークの香りが素晴らしくて、いやいや実に美味でありました。

 飛行機もつつがなく飛んで午後3時、無事羽田に着陸。4時半ころには帰宅しまして一休みしてから一ヶ月ぶりに自転車を乗りに行きました。隅田川を下って桜橋を渡ると平成中村座が去年と同じ所に建っていまして、そばに行くと太鼓や三味線の音が聞こえてきます。のぞいてみると「四の切」の稽古の真っ最中でした。ちょうど黒御簾の用が終わった仲間の面々に会いまして
「あれ?」「ベンちゃん、なにしてんの」「近所なんでちょいと遊びに来ました」なんてしばらくおしゃべりして帰ってきました。

 博多乗り込みは11月2日なのでこれから3日間、正真正銘のお休み。助かったぁ。