9月12日
今月は歌舞伎座におります。
しかしまぁ9月になってから暑い!
先月は「これが8月?」というへんてこな陽気で涼しくて過ごしやすかったですね。体がすっかり快適なのに慣れてしまったところにこの暑さは参ります。
今月の私のお仕事は昼の「喜撰」「河内山」、夜の「身替座禅」「ひらかな盛衰記」の4本。
「喜撰」という曲、これは清元と掛け合いでこちらは清元の上調子(五度高い調子)で弾きますので普段の長唄の演奏の調子よりもどんと高くなります。三味線の糸もピンピンで使用強度の限界を超えますので演奏中にしょっちゅう切れます。駒が割れちゃうんじゃないかしら?というような糸の張力が棹にかかりますし、皮もこの力で押されるわけですから張りがだんだん緩くなります。三味線に大事な「サワリ」もいつもと全然違っちゃいますので壊れますし、とにかく三味線にとっては良いことはありません。
「喜撰」というと楽器と糸の心配で憂鬱になりますが、曲は賑やかで舞台にいて清元聴いていても気持ちいいし(自分たちが弾く番になると音がキンキンしていてくたびれますけど…)私は好きな曲です。
「業平」の段切れ、芝翫さんが花道に入り長唄囃子の御簾が降りて「チョン」となり賑やかなお囃子の中「喜撰」への転換となりますが、この間私たちと大道具さんは大忙しで、
一、まず「業平」を演奏していた人たちの芝翫茶の肩衣を回収、山台の下に放り込む。
二、「喜撰」の桜の肩衣を配り、「業平」を弾いていた三味線弾きは前述の高い調子に上げる
三、「喜撰」では七挺七枚(14人)と人数が増えますので「業平」で四挺四枚(8人)座っていた山台に下手から付け足しをして伸ばし位置を少し中央に出す。
四、山台が出来上がったら全員大急ぎで座ります。その間にも調子をみたり肩衣前掛けを整えたり座り心地を直したり忙しい忙しい。
五、私たちの様子を見計らってお囃子が上がり析が入り、またお囃子が附直しになって前の張り物が飛んでいく
とこの間約2分。今では慣れましたが初日が明いた頃は何だか慌ただしくって始まってしばらくしても落ち着かなかったです。こんな忙しい転換は滅多にありません。
播磨屋さんの「河内山」は今月一番の楽しみです。毎日黒御簾にいてこんな気持ちの良いお芝居は他にはありません。「質見世」「書院」と「ニヤリ」としてしまう面白いところがたくさんありますが、やっぱり気持ちの良いのは「玄関先」ですね。
「聞いてくれ、よ〜」で琴、尺八入りの「三曲合方」にかかり「悪に強きは善にもと、世の譬えにも言うとおり…」となるわけですが本当に名調子!毎日ゾクゾクッとします。
今月は25回、三味線弾きながら見られるのですからこの仕事していて良かったなぁと思います。
夜の部の「身替座禅」、今度は常磐津と掛け合いで長唄が登場するところは右京が帰ってくるところからですので、弾いているのは最後の15分くらいということになります。
「喜撰」では清元の上調子(五度高い調子)を取りますので高い調子でしたが「身替座禅」では常磐津と同じ調子にしますので長唄の標準的な調子より低くなります。調子が低いと三味線はあまり鳴らなくなりますので「喜撰」とは逆の意味で演奏しにくいということになんですが、昼夜でこんな状況の違う掛け合いものをやるのは初めてかなぁ。
9月21日
相変わらず暑い日が続いていますが夕方になるとさーっと吹く風も気持ちよく、次第次第に秋の気配が感じられるようになった今日この頃です。
なーんて呑気なこといっていたら今日はいきなり10度近く気温が下がり、涼しいの通り越して寒いし台風は接近してるし本当に変な天気。
「身替座禅」の時、衾をかぶった播磨屋さんがちょうど私の前あたりにいらっしゃるんですがお芝居に細かい変化があって面白いです。
右京が帰ってきて奥方にいろいろ話しかけてるとイエス、ノーをうなずいたり衾を振ったりして返しますが、その仕草が「ふんっ!」て感じで怒り最高潮の、実におっかないぶっきらぼうな応対。後ろから見ていて可笑しくて可笑しくて、18,19日あたり特にその怒り具合が強烈に感じられて吹き出しそうになりました。他にも「昨日と違うな」というところがあったり毎日楽しみですが、後ろ姿だけではなくぜひ一度正面からも見たいですねえ。
「河内山」の「質見世」で宗俊が娘を助けるのを請け負って戸口から花道に向かうところで「しぐれ時雨に…」という独吟にかかりますが、これは長唄「初時雨」の一節です。
とこんな歌詞であります。端唄風の粋な情緒が盛られた短い渋い曲で、冒頭から「鐘の音」までの部分は、英一蝶が描いた待乳山の絵に自ら賛をした小唄
「楢松の葉の落ちそめて夕かげ白き待乳山、しぐれ時雨に啼く鴫の
声も氷るや干潟道、衣紋坂越えて鐘の音」
の「夕かげ」を「夕暮」に替えてそのまま取り入れ、あとは廓の風景、廓での睦まじい男女の語らいの情景で結んでいます。
なお「可愛可愛と」から「露にしおるるもろ翼」までの歌詞は元は
「可愛可愛と引き締めて互いに肌を暖め鳥、鴛鴦(おし)のふすまに思い寝の、
室の初花下紐解けてそれから結ぶ夢見草、露の情けをいたづらな」
というもので、かなり描写が直接的で濃艶であったため上記のように改作されたとのことです。
という長唄「初時雨」から「質見世」で使っているのは上記太字アンダーラインの部分で「しぐれ時雨に」のあたりは唄も三味線もゆっくりで、花道では宗俊が娘を助け出す思案をしています。「啼く」で唄がすーっと切れたところで宗俊が膝を叩くと「鴫の声も氷るや干潟道」と気を変えてノッて弾き、宗俊は花道を引っ込むという形になっておりますが、曲の使い方も見事で本当に良い場面です。
この独吟、今月は鳥羽屋里長師が勤めておられます。
9月22日
昨日(21日)、歌舞伎座終演後「大当たり勘九郎劇場」の収録でNHKに行きました。
今回は番組の後半、黒御簾の特集ということでゲストの大竹しのぶさんと勘九郎さん、渡辺えり子さんがクイズ形式で音を当てたり唄に合わせて芝居をしたりという内容。
黒御簾の特集ですから私たちやお囃子さんしっかり画面に写りますので、メイクさんにファンデーションで顔をくっきりしてもらってスタジオに入ります。一応台本がありまして演奏するものなどは決まっているのですが、何といっても相手は勘九郎さんですから何が起こるかどう脱線するかわかりません。案の定本番前になって「あれやってよ」。
「誰でもピカソ」でも弾いたあの曲、もしかしたらなぁと思って念のため譜面を持っていったんですが良かったです「イッツ・ア…」
サウンドチェック、カメリハをやって本番の始まったのは23時頃。ディレクターさんの「本番、止めずに一発でいきます」の声でいざ収録開始。台本通りに進んでは行くのですが途中で話は脱線しっぱなし。ディレクターさんのカンペには「先に行きましょう」とか「次へ」の文字ばかり。「連理引き」や「只唄」の入りを渡辺えり子さん、大竹しのぶさんが実際にやってお二人とも大喜び。
最後には渡辺えり子さんの忠七で「髪結新三」をやったんですが、忠七を踏んづけて「うぬのか細えその体に…普通は下駄の歯の間に腕が入るんだけど…この人は太っているから入らないんだよまったく」「うるさいわねえ」なんていいながら大爆笑の永代橋でした。
笑いっぱなしで面白かった収録の終わったのは23時半、ちょっとくたびれました。
この放送は衛星第二で11月2日だそうです。お楽しみに。
「忠臣蔵・決断の時」のDVD4枚組、全部見終わりました。いっぺんに見ちゃうのは何だかもったいないなぁと思って1日に一枚ずつ急がずじっくり見ていこうと思っていたんですけど2枚目を見終わったときにはすっかり雰囲気が出来上がってしまって3枚目と4枚目は一気にぶっ通し。感動感動!いや〜良かったです。時間を忘れてすっかり集中していたので見終わったのは午前4時。翌朝というかもうその日なんですが、徹夜明けみたいで眠かった。
来月は久しぶりの巡業です。橋之助さん、信二郎さん、亀鶴さんという面々で「浜松屋・勢揃い」「茶壺」という演目で、長唄は弾きっぱなしの大忙し。
10月29日に札幌乗り込み、そのあと網走、留萌、岩見沢とやって本州に渡り月中まで東北地方を転々、後半は岡山、四国各地、九州に渡って24日佐世保で千穐楽となります。一回公演と休演日と移動日が結構あるんですけど、北海道の移動はどれもバスで何時間?かかるとかいう噂で大変そう。
10月28日
25日に名古屋から帰ってきまして26日は一日お休みでした。
それまでに家に着いていた旅の荷物に加えて「26日午前中指定」配達の荷物がドドッと帰ってきまして(計8個)午前中は大量荷物バラシ。相変わらず何でこんなに荷物が多いんだか?
この日はお天気も良くて暖かだったので午後から浅草へ出かけまして、千穐楽の中村座の楽屋に遊びに行ってきました。
浅草寺境内では「奥山風景」というのをやっていまして賑やかで楽しかったです。お店を眺めながらぶらぶら歩いて五重塔通りを行くと右側に葦簀がけの「見せ物小屋」がありまして、呼び込みやっているおじさんが面白いので入ってきました。
見せ物小屋の定番、よく志ん生さんの落語のマクラに出てくる「山から艱難辛苦して捕ってきた六尺の大イタチ」とか「大ザル小ザル」「大かみ娘」など、もうネタはわかっているんですがおじさんのしゃべりが面白くて笑いっぱなし。「じゃーん」幕が上がって出てくるものも予想通りで可笑しかった。是非一度ご覧ください。
本当にこの日は暖かで穏やかな日曜日でした。

27、28日と巡業の稽古。早いもので明日29日は札幌に出発です。朝9時に羽田集合なので早起きしなくちゃなりません。今回はPowerBook持っていきますので巡業日記書いていこうと思います。
名古屋から帰ってきて3日間、お蕎麦ばかり食べていまして欲求不満解消。
明日からは北海道ですが何を食べようか楽しみです。前にやはり文化庁の巡業で北海道に行ったときは根室でちょうど「花咲ガニ」の旬。初めて食べたんですけど美味しかったなぁ。
10月29日 乗り込み・舞台稽古
いよいよ巡業開始、今日は札幌乗り込みです。一日中降り続いた昨日の雨は通り過ぎて東京は良いお天気でしたが風が強くて滑走路では横にガクッと振られたり、昨日の雨が北へ移動した不安定な天候に沿って飛んでいるのか、ものすごく揺れました。北海道は雨でそんなに寒くありませんでした。一同バスで厚生年金会館へ。
開館について荷物をバラシ、3時から舞台稽古。8時ちょいと前に終わりホテルに向かいましたが今朝は5時から起きていましたのでもう眠くて眠くて、早めに休みます。
10月30日 初日 北海道厚生年金会館
昨日はそんなに寒くないなぁと感じたのですが、今朝食事のあとぶらぶら歩いていたら風が結構冷たくてやっぱり北海道ですね。
今日は初日で1時、6時の2回公演です。舞台稽古から初日というのはいつでも忙しくて慌ただしいのですが、巡業だと他にも荷物の整理やら撤収の算段やら用事が増えて普段よりバタバタしています。まぁ何はともあれ無事に初日が明きましてホッと一息であります。
今回「茶壺」が出ていますが、大学3年の時に4日間、歌舞伎座で初めて三味線を弾かせていただいたのがこの「茶壺」です。三味線で歌舞伎座の山台に乗ったのは初めてだったのですが、その日がちょうど二十歳の誕生日(昭和58年1月かな)に当たっていたのでとても思い出に残っています。天王寺屋さんが素晴らしくて、ずっと踊りに目が行っちゃっていたような記憶があります。
その後全然機会がなく仕事に入ってから弾くのは何と今回が初めてです。
明日は移動日です。札幌から北見まで約300キロ、4時間半の電車旅。巡業っぽくなってきましたよ。
10月31日 移動日 札幌〜北見
昨日初日が明いて「さぁ始まった」と思ったら今日はいきなり移動日でそれも半端じゃない300キロオーバーを行く大移動。札幌駅で「かにめし弁当」と六花亭の「マルセイバターサンド」(これあたし大好きなんです)を買って9時41分の「特急オホーツク3号」網走行きに乗っていざ出発。
今日は快晴で景色が遠くまでくっきり見えます。木々は色づきすっかり紅葉、というか北海道の山々には紅葉とか楓や赤くなるものはあまり見あたりません。黄色に色づくものが多いようで山々も黄色に染まっていて、空の抜けるような青と針葉樹の緑とのコントラストがとてもきれい。電車は北上し「岩見沢」「滝川」を通過、この2カ所は2日後くらいに戻って来て公演やったり泊まったりするところなんです。朝食べてこなかったのでこの辺でお弁当タイム。
「かにめし弁当」カニがてんこ盛りで美味しかった。
旭川から石北本線を東に進みます。
旭川過ぎるとがらっと景色が変わりまして、山が間近に迫ってきて時折線路の脇に渓流が現れたり、葉の落ちた白樺の林の根元には青々とした熊笹、冬間近の北海道の景色の中を進んでいきます。右手に頂に雪をかぶった高い山々が見えてきまして、ここら辺が「大雪山国立公園」。
ここまでで約3時間が経過したんですが、それからDVDを見たり雑誌読んだり居眠りしたり…ようようのことに午後2時16分、北見到着。いや〜長かった。
ホテルに荷物を置いて町散策。
五七郎さんと「北見ハッカ記念館」に行きました。
ハッカはあのスッとするハッカですね。北見という町はその昔ハッカでとても栄えたのだそうで、昭和10年頃には世界のシェア70%を占めていたとのこと。
ここではその製造工程や蒸留装置など見ることが出来ます。売店ではいろいろなハッカ製品を売っていまして、私はハッカ油のスプレーと結晶の瓶詰めを買ってきました。建物の中はハッカの香りがしていましたので見学中にスースー鼻の通りが良くなったような…。
今日宿泊のホテル、なかなかきれいで部屋も広いし大変結構なのですが、なお結構なことに天然温泉の大浴場がありました。さっき行ってきたんですが柔らかいお湯で肌はツルツルになるし気持ち良かった。
明日はここ北見で公演、ではなくバスで小一時間ほど行った「網走郡津別町」というところで午後1時から一回公演。